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メルヴィン・ウェインズの場合

 ウェイバー・ベルベットを最初に意識したのは、きっと私が最初だ。
 いつも苛々して、たまにどこかの教授に呼ばれていなくなって、宝石コレクションをみせびらかしてたら突然殴られた。呆然とその姿を見つめる私を一瞥したかと思えば、また肩をいからせていつもの席へ戻っていったから、多分あの席からでも煩かったのだろう。偶然の出会いだし、そもそもこれを出会いと名付けていいのかすらわからない。だってこの出来事を、彼は憶えているかすらわからない。だから、きらきらと輝く瞳を向けて『時計塔全部をひっくり返してやる』なんて言った時は、漸くできた繋がりに、無自覚に嬉しくなったりもしていたのかもしれない。
 ただ、その頃はまだ彼をそれほど特別に期待していなくて、返せなくなった借金の手から逃げるウェイバーを見付ければ、それはそれで面白いものが見られるとさえ思っていたのだから。
 再会したウェイバーは随分と雰囲気が変わっていた。苛々していたようではあったけれど、それよりも大切な何かを見つけられたみたいで。あの空港で、担保もなく、保証もない。借りていた金もこれしか返せない。だけど金を貸してほしい。やるべきことがある。あの人の死に責任がある、と、真っ直ぐな瞳を向けられたあの時、多分これは、俗にいう恋に落ちる音がした、というのだろうね。実際それがどんな音色なのか聞いてみたいものだけど。担保もなく、保証もない人間を繋ぎ止める術を考えたら、親友になればいいと、思いつきにしてはかなり上手い理由だ。だって彼は、『親友』を簡単に裏切れるような人間じゃないからね。
 彼については本当はとても語りきれないいくつもの想いがある。ああ、これはウェイバーには内緒だけど。ミス・ライネスなんかはどうせ気付いているんだろうけど。グレイさんにも気付かれているかもしれない。彼女はよくウェイバーや、その周りにいる人間をよく見ているから。ウェイバーを傷付ける人を常に探している。決してウェイバーが傷付かないように、傷付けないように、無意識のうちに見張っているのかもしれない。いいボディーガードを持ったものだと、感心してしまうくらいに。
 だからもし私がウェイバーを傷付ける側になれば、それは彼女にとっての『敵』になるのだろう。それはそれで面白そうだけど。
けれど、この想いが別に誰に気付かれていても、ウェイバーにだけ気付かれなければそれでいい。もし彼が気付いていたとしても、気付かないふりをしてくれるならそれでいい。
 私はね、このままの関係をとても好ましく想っているんだ。
 ずっと、それこそ私か彼が死ぬまで続けていけるのなら、それでいいんだよ。
 私が金を貸して、ウェイバーが金を借りる。私はそれをネタにいつまでも彼の傍に居られる。
 ただ、それだけでいいんだ。
 こんな関係を誰がどう思おうとも、それでいいんだよ。

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