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それが望みと云うのなら(橘柩)

風が凪いで、木々のざわめきが止む。
 柩は橘を横たえると一旦立ち上がり、遠くの空を見つめた。
 骸ではなくなった身体は夏の暑さを感じ、今まで抱えていた蛍の冷たさを伝える。いっそ、それさえ分からないままでいられたら、どれだけ楽だったろう。
 橘の最期の温もりを刻み付け、急速に引いていく体温を染み渡らせて、何度橘の望みを断ち切ろうとしたことか。
 それでも、あの時。奇跡とも呼べるあの瞬間、橘が選んだのは漆黒でもネムでもなく柩だったことが、それを思い止まらせた。埋葬する場所を目で探していると、山の頂の少し拓けた場所を見付けた。丁度真上の雲が割れて、その隙間から光が差している。
 ここにしよう。
 声には出さず呟いて、軽くしゃがむと地面に触れる。滅多に人が来ない場所のせいか、土は柔らかい。景色もいいし、麓には花鶏も見える。ここなら、お前も寂しくないよな。
「橘は寂しがり屋だからな」
 無意識に声に出してしまった自分に驚きつつ、きっとあの蛍は煩く否定するのだろうと微笑んだ。

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