忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

悪食家になど滅ぼされないさ

 情事のあとの身体の重怠さもそこそこに、ロード・エルメロイ二世はウェインズ家の屋敷の客間へと案内されていた。どうしても金が入り用になればメルヴィンの元を訪れていたし、一旦客間に通されるがすぐに男の寝室へと赴き、身体を重ねて再び客間へと通される。
 ひらべったくてなんの面白みもない身体をメルヴィンはいつも撫でくりまわし、十分すぎるほど堪能される。最中に吐血されることも珍しくなく、部屋の主人と繋がったまま腹上死、或いは貫かれたまま下で死なれては叶わないと、二世にとってひたすらに迷惑極まりなかった。
 そうして互いに果てたあとピロートークも何もなく客間へと促される。二世も二世で、用意されてある濡れタオルで体液を拭ってから服を纏い、客間で待つのが常だ。
 フットマンに出されたアプリコットティーを傾けながら、喉を潤す。既に冷めた身体に足りなくなった水分が吸収されていくのを感じる。
 十分ほどであまり温かいとは言えない体温に、背中越しから抱き締められた。片方の手は逆の肩に添えられ、もう片方のは二世の利き腕ではないほう──肘掛けに置いていた手へと。手首を伝い手袋を白い指先が潜り込んでくる。あまり余裕のない素材のせいで、真後ろの男──メルヴィンの少し冷たい手のひらがぴったりとくっついて、手の甲で感じた。
「なんの真似だ」
「うん? したくなっただけだけど、嫌かい?」
 嫌も何も、それ以上のことをしておいて今更だが、わざわざ口にしたくはない。元々メルヴィンとは甘ったるい付き合い方をしていないし、今後も変わる予定はない。だからこの自称親友の意図が知りたくなっただけだ。
「私がどうしてこうするのか、──そう、ホワイダニットは君の最も得意とする推理じゃないか」
「馬鹿馬鹿しい」
 鬱陶しくなりティーカップを置いてメルヴィンを払い除ける。
「おっと」
 気紛れに抱いてきた女と同じ扱いを受けたところで喜ぶはずもなく、そもそも性欲処理に困らない男がわざわざ面倒な同性を選んだ理由。おおかたよく知る人物が同性に抱かれ、心を寄せていき、終いにはメルヴィンのほうから突き放し堕落する様を見たい。そんなところだろう。わかりきっているからこそそんな事態にはならないというのに、一体いつまで期待するというのか。
「いいか、メルヴィン。二度と私をその辺の女と同じ扱いをするな」
「いいじゃないか、たまには」
「虫唾が走る」
「随分な言いようだねぇ」
 相手にするのも馬鹿らしくなり席を立ち、藍色の仕着せを纏ったフットマンから上着を受け取ると、すぐに玄関まで進む。もう一人のフットマンは荷物を持って来た。
「今日の約束、忘れるなよ」
「勿論だとも。君は私の親友だからね」
 絶妙な連携でいつものように玄関を開ける。
 胡散臭い笑みを振り払うために、自らが住まうアパートへと足を踏み出した。





拍手

PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

掲載されている文章・画像・その他すべての無断転載・無断掲載を禁止します。

TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]