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メルⅡ
心拍数と血流の速さによる吐血の頻度の検証
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心拍数と血流の速さによる吐血の頻度の検証
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『僕の心臓はね
一分間にね
七十回のね
「生きている」を叫んでるんだ
でも君といると
少し駆け足で
百十回のね
「愛している」を叫ぶんだ』
(
心拍数#0822
蝶々P feat.初音ミク より)
心地の良い朝、メルヴィンは創造科の窓から青い空を見上げた。ここ数日寝ていたお陰で快調で、彼の困った顔を存分に楽しむにはこれ以上ないほどだ。
確か今日のこの時間は手が空いていて、魔術書を読んでいるだろう。その邪魔をしにいくのはひとつの楽しみとなっていた。テレビゲームとやらをプレイしている可能性もあるが、最近新作が出た情報もない。コントローラーが二つあるというのに、彼はいつも決まった片方しか使わないし、誰にも使わせなかった。
決まった恋人がいるだとか、はたまた死に別れた恋人のものだとか、受講生に噂されているのを彼は気付いているのだろうか。
以前彼が、宝物のように口にした『イスカンダル』の伝記を、メルヴィンもいくつか寝込んでいる間に読んだことがある。
たった二十歳で王になり、十年に渡る遠征の果て熱病に罹り死に至った征服王。伝記では矮躯とされていたが、それを指摘したらウェイバーは二メートル以上ある巨漢だったとうんざりしていた。うんざりしていたのは表面だけで、本当は心の中では彼との思い出で満たされていたであろうに。
まるで会ったことがあるようだと指摘して、口を噤むばかりだった聖杯戦争で彼を変えたのがイスカンダルだと聞いたのは、イラクから帰って二年後のことだった。今はそれから一年が経ち、どうにかこうにか名ばかりのエルメロイ教室を存続させていたが、先日ロード・エルメロイの名を継ぎ、ロード・エルメロイ二世として教壇に立っている。
彼に会うと決めたときから、ほんの少し心拍数が上がっていた。
執務室をノックすることなく開けると、そこに彼はいない。几帳面に片付けられた部屋。客をもてなすための机とソファを横切り、もっと奥にある扉のノブを握った。
どうやら、柄にもなく緊張しているらしい。彼に一歩一歩近づく度、鼓動が速くて仕方がない。
ゆっくりと息を吐き出すと、思い切り開ける。
驚いた様子もなく、呆れた表情で眉間の皺が増えた青年に微笑む。
「……何の用だ、メルヴィン」
「実はずっと君に言いたいことがあってね。いつにしようかと時期を見計らっていたんだが、今日が一番いいと思って」
彼が座るソファに近付き、背もたれに手をつく。いつの間にか伸ばすようになっていた髪は傷んでいて、肩にかかる部分を掬い上げた。伸ばすならもっと髪質に気を使えばいいのに、もったいない。
「借金ならエルメロイ家が肩代わりすることになっているはずだぞ」
「ああ違う違う。そんなどうでもいいことじゃないんだ」
きちんと話を聞く気になったのか、ウェイバーは分厚い魔術書に栞を挟んで閉じる。メルヴィンは髪を離すと彼の手を取り、自身の左胸にあてた。
「なんだ?」
「わかるかい? 君といると鼓動が速くなるんだ」
「…………?」
本気で意味がわからないらしく、深緑の瞳が真っ直ぐに此方を向く。それがどれだけメルヴィンの胸を焦がすのか、理解できないままに。
「私はね、君のことが好きなんおぼぉぉぉぉぉぉ」
「いきなり吐くなぁ!?」
三年経っても慣れない反応が、とても可愛い。胸に入れてあるチーフで血液を拭うと、再び胸ポケットに押し込んだ。
やはり、ウェイバーといると鼓動が速くなる。そのせいだろうか。血流がよくなり、吐血の回数が増える。
先程まで快調そのものだったのに、彼に会うと決めてから悪くなる一方だった。人はこれを不幸と捉えるかもしれないが、自分はそうではないと言いきれる。
骨髄から作られ、血管を流れる血液の一部がウェイバーのためのものだと考えれば。この身体の一部でも、ウェイバーに会うために出来たのだと考えれば、それはとても幸せだと。そうは思わないかい?
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