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それは確かに君の色

一際強い風が吹いて、見上げていた空で雲が急速に流れていく。
 そのまま眺めていると、雲に隠れていた月が現れた。
 それまでは言葉もなく、大倶利伽羅と共に縁側に座っているだけだった。しん、と静まった夜に、ふたりきりで。肩の触れ合う距離で。
 いや、もっと近い。光忠にしかわからない程度に、大倶利伽羅はほんの少しだけ、寄り掛かってきていた。
 言葉がなければ場が持たない二人ではない。むしろ、その静けさにすら心地よさを覚えている。けれどそれを最初に破ったのは、光忠のほうだった。
「月が、綺麗だね」
 今日の月は一際大きく、まばゆく輝いているように見えた。
 それは、満月だから、という理由だけではないのだろう。美しいそれは、ただそこにあるだけで、見上げる者を魅了する。
 そんな時にふと、思い出したのだ。
 遠い昔に夏目漱石が、I love you.を、月が綺麗ですねと訳したということを。審神者に聞いたのだろうか。それとも、書物で知ったのか、出どころはもう、忘れてしまった。
 隣の彼は眩しさを厭う様子はないが、そっと目蓋を伏せている。微笑んでいるように、光忠には見えた。
「……ああ」
 それ以上の言葉はない。だが、言葉の真意に気付いているのであろう。大倶利伽羅の返答は短いけれど、それだけで十分だ。
 再び静寂が舞い降りる。
 光忠はまだ月を見つめたまま、声には出さずに呟いていた。
 月は、彼の瞳の色とよく似ている。

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