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昼間赴いたのは、以前はかなりの苦戦を強いられた場所だったはずだ。重傷を負っては撤退を繰り返し、漸く攻略を終えた地域。当然連れていく兵士も厳選し、精鋭を投入することになる。
大倶利伽羅率いる部隊の随伴となった同田貫正国、太郎太刀、鯰尾藤四郎、山姥切国広、平野藤四郎の士気も上がっていた。だが、当然と云えば当然だろう。部隊全体の練度は高くなっており、苦戦どころかかすり傷ひとつなく帰路へついた。
そのせいで、興奮冷めやらぬまま夜を迎えることになったのは、大倶利伽羅にとって不運としか言えないだろう。
冷たい水でも飲めば落ち着くかと冷たい廊下を歩く。しんと静まり返った深夜は、昼間と比べて気温が大きく下がっていた。
裸足で部屋を出たことを後悔するが、この寒さならば、気持ちの火照りも冷めるかと期待もある。
外へ出ると、歩き慣れた道を辿り井戸を探した。だが、その途中に人影がある。
目を凝らすと、その正体は同田貫だ。素振りをしているらしい。恐らく彼も、大倶利伽羅と同様、上がったままの士気を持て余しているのだ。
無意識に止めていた足に気付き、目的を果たそうと再び井戸へ向かおうとした。しかし、静寂の中砂を踏む音は、想像以上に響く。集中を途切れさせた同田貫はその手を止め、こちらに視線を寄越した。
「おい」
知らぬ振りを決めるが、大股に追い掛けてきた男に肩を掴まれてしまう。舌打ちをし、仕方なく振り返った。
「……………なんだ」
「無視すんじゃねぇよ。何やってんだ?」
「お前には関係ない」
用が済んだなら早く離せと払えば、進む方向を見やり同田貫が口元を歪めた。
「へぇ」
どうせ理由にも気付かれたのだろう。面白くはないが、ならばこれ以上引き止められる道理もないはずだ。
さも可笑しいとでも言いたげな表情は、同類を見付けた喜びと近い。
だったら来いよ、と。唐突に腕を掴み直された。そのまま抗う余裕すら与えられず、同田貫に充てられた部屋に連れ込まれる。敷かれたままの布団に、勢いをつけて放り投げられそうになった。
すんでのところで堪え、睨みつける。
「………っ、ふざけるな。離せ」
熱い吐息がかかる。眉を顰め、空いているほうの手で押し退ける。だが片腕が使えない状態ではうまく動けない。
月明かりが射し込む薄暗い室内では、同田貫の表情しか見えなかった。ケロイドになった大きな傷を残した男は、目が合うとにやりと笑う。
「離せ? 冗談」
離すわけねぇだろ、と。まるで腹を空かせた肉食獣だ。ぎらつく瞳を隠そうともせず、力任せに身体を押し倒される。
「―――チッ」
舌打ちをし、拘束を解こうと勢い良く払うが、乱暴な男はそのまま馬乗りになる。
「ふざけるな。退け」
「てめぇも興奮してんだろうが」
足の間に膝を置かれ、閉じることは叶わない。その上両手とも捕まり、身体は自由を奪われてしまった。
戦闘時の興奮が残っていたのは事実だ。だが、単純に性欲に結び付けたかったわけでもない。寧ろ、大倶利伽羅はそうなることを避けていたのだ。
「…………クソッ。やめろ」
「いいじゃねぇか。興奮して眠れねぇんだろ?」
さも当然のことのように鼻で笑い、股の間に膝を押し付けられる。その刺激に肌が粟立った。
欲しかったわけじゃないと言い訳をしても、拘束が緩むわけもない。何度も擦られるうち反応してしまうのは、致し方ないことだろう。
「固くなってきた。やっぱイイんじゃねぇか」
「違うっ」
もう何度も、同田貫と大倶利伽羅は身体を繋げてきている。俗に言う恋人同士だというのなら、不思議なことではないのかもしれない。だが、耐性のつかない感覚というものはあるのだ。
慣れない人間としての身体。その上、そういった機能として造られていない部分で行為を受け入れることが、どれだけプライドを傷付けるのか。彼にはわかるまい。
最初に手を伸ばしたのは、同田貫だ。喧嘩の延長だとか、手合わせの流れだとか。日常のひとコマに罅を作った。
共に居たとしてもやることは何も変わらず、愛の言葉を囁き合うようなガラでもない。だがその瞳の奥に、熱を灯し、燻らせ始めた。
大倶利伽羅は元々性欲は強くなく、寧ろ淡白と言えよう。そのため行為に及ぶ際、必然のように主導権を握られている。
噛み付くように唇を合わせ、歯が当たったせいで唇が切れたらしい。血の味が口内に滲み、暴君にも同じ場所に鮮血がついていた。
「いい加減諦めろっつーの」
片手がシャツの上から胸をまさぐり、突起を捏ねられる。逃げてしまいたい。感情はそう訴えているのに、身体はその行為に甘さを見出し始めた。
嫌だと口にはしている。だが大倶利伽羅ほどの男ならば、心から思っていれば、疾うに逃げているだろう。自由になった片腕は、今も同田貫の肩を押していた。殴ってでも逃げないのは燻ぶるだけだった火を、大きく育てられているせいだ。
腰巻を緩められる。スラックスを下ろそうとする指は、先程まで寒空の下にいたというのに、熱い。
「んだよ、ここまで来たんだ。もうやめらんねぇだろ。腰浮かせ」
急かされるが、理性の残る頭は素直に頷けるはずがない。意固地になっていると溜息を吐き、緩んだ腰の隙間から指が入ってきた。そのまま下着の中にまで潜る。ダイレクトに伝わる刺激に、ひくりと腰が震えた。
「往生際が悪ぃな」
既に膨らみ硬くなっていた茎を握られ、擦られる。服を着たままなせいで、窮屈な動きですら、大倶利伽羅を煽っていく。
「っく…………っ、ぁ」
せめて声は出すまいと口を閉じても、呼吸が出来ない。息継ぎの合間に強く刺激されれば、望んでもいない声が漏れた。手の甲を唇にあて、顔を逸らす。
「このまま出したら汚れんぞ。いいのか」
「……っるさい。お前が……っ、やめれば、済むことだ」
「無理だっつってんだろ。ったく。おらよ」
面倒臭そうに溜め息を吐くと、手が離れて身体を裏返された。あまりの唐突さに、抵抗のひとつも出来なかった。うつ伏せにされ、下肢に纏う服を脱がされていく。
冬の冷たい空気が肌に触れる。感じるのは寒さよりも心地よさだ。
腰を抱かれ、尻に手のひらを這わせている。もう此処まで来てしまえば、その先を想像するのは容易だ。中途半端に放置された前が辛い。身体は沸騰しそうだというのに、いつまでも焼き切れない理性もまた、大倶利伽羅を苦しめた。
***
性急に解されたそこに、猛ったものを押し込められた。うつ伏せで腰だけを高く上げさせられ、逃げられないことがひどく悔しい。
無言のまま、背後の男が動き始める。
「……は、ぁ……っく」
野生の獣のようだ、と唇を噛む。本来捕食される側ではないのに、饒舌さを欠いた獣は欲のままに喰らう。相手のことなど考えないそれに、同田貫がどれほど飢えていたのかを知らしめられた。
揺さぶられ、激しすぎてついていけない。シーツを手繰り寄せて握り締め、快楽に耐える。枕に顔を埋め、声を殺していた。
荒い息遣いと、粘着質な水音。それが何処から聞こえるものなのか、考えなくとも明白だ。
かぶりを振って、少しでも熱を逃がそうとする。だが、腰を掴んでいた武骨な手が滑り、前へと進んだ。
「や…め……っ」
「いいのか?」
「違……っ、く、そ……っ」
先走りで濡れる先をなぞり、全体を握られる。擦られて、視界がぼやけていく。
身体は僅かな刺激すら悦びへと変えた。苦しいと訴えても、止まってはくれない。限界なのだろう。次第に動きは速くなり、制止の言葉さえ満足に言えなくなる。
一番快感を得る場所に触れられてしまっては、何からも逃げられない。溺れたくなどないのに、殆ど力づくでそうされていた。
「あ、……っ、も、やめ……」
促すように、一際強く突かれる。堪える余裕もないまま視界が明滅し、気付けば達していた。
「…ん、く……ぅ」
布団に埋め、息を整える。疲弊した身体は休息を求めていた。殆ど同時に欲を吐き出した同田貫が、背中に伸し掛かる。重いが、邪魔だと払う気力すら奪われていた。
このまま目を閉じれば、すぐにでも熟睡出来るだろう。
「おい。こっち見ろよ。キス出来ねぇだろ」
身勝手なことを要求され、無視を決め込む。しかし、舌打ちをしたかと思えば、唐突に肩口に噛み付かれた。何が起こったか一瞬理解が遅れる。
振り払おうとした腕は、しっかりと拘束された。
「……っ、な、にを」
は、と耳元で吐き出された息は、まだ熱を灯していた。立てられた歯が離されたのも束の間、今度は耳朶をべろりと舐められる。
「足りねぇよ。一回じゃ足りねぇっつってんの。まだやらせろ」
後ろに入ったままの同田貫自身は、勢いを取り戻していた。遠慮など欠片も見せずに、再び動き始める。口にしたのは許可の申し出でも、確認でもない。今から実行することを、伝えただけ。
「……ゃ、っめ……、っぁ」
制止の声は、結局意味をなさない。冷めかけた身体に、熱が甦る。
揺れる視界で、障子に透けている満月を見詰めた。
夜は、まだまだ長い。
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